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大阪地方裁判所 平成11年(ヨ)10010号 決定 1999年6月16日

債権者

ポール・ドーリー

右債権者代理人弁護士

丹羽雅雄

債務者

株式会社日米英語学院

右代表者代表取締役

金久保

右債務者代理人弁護士

堀井昌弘

主文

一  債権者が、債務者に対し、労働契約上の権利を有する地位にあることを仮に定める。

二  債務者は、債権者に対し、平成一一年一月二一日から本案第一審判決言渡に至るまで、毎月末日限り月額二三万円の割合による金員を仮に支払え。

三  債権者のその余の申立てを却下する。

四  申立費用は、債務者の負担とする。

理由

第一申立の趣旨

一  債権者が、債務者に対し、労働契約上の権利を有する地位にあることを仮に定める。

二  債務者は、債権者に対し、平成一一年一月二一日から本案第一審判決言渡に至るまで、毎月末日限り月額二七万五三七五円の割合による金員を仮に支払え。

第二事案の概要

一  債務者は、英会話など外国語を教えることを主たる業とする会社であり、債権者は、債務者の梅田校にて英会話講師として就労していたものである。

債権者は、平成二年二月八日債務者と英会話の講師(パート社員)として雇用契約を締結し、同年三月二一日には、契約期間を一年とする正社員となり、これ以降毎年契約を継続更新し、平成一〇年二月二日に、契約期間を平成一〇年一月二一日から平成一一年一月二〇日、給料月額二七万五三七五円、労働時間一週二九・二五時間とする雇用契約を締結した。

債務者は、平成一一年一月二〇日、<1>債権者のクラス予約率が五〇パーセント未満であること、<2>債権者が割り当てられた義務とスケジュールに関して職員に非協力的であること、<3>就業規則と合意書に違反することから、債権者の就業状況が著しく不良で就業に適しない(就業規則第三七条三項書証略)として、債権者を解雇した(以下「本件解雇」という。以上争いがない事実)。

本件は、債権者が、予約率(稼働率)の減少の原因は債務者にあり、また何らの理由なく債権者を非協力的であり、規則と合意書に違反するとした本件解雇は、解雇権の濫用であること、及び本件解雇は、債務者における債権者の組合活動を妨害し、組合の消滅を意図した債務者の不当労働行為であることを理由に、本件解雇の無効を争った事案である。

二  当事者の主張

債権者の主張は申立書及び(書証略)準備書面のとおりであり、債務者の主張は答弁書及び主張書面(書証略)のとおりであるからこれらをそれぞれ引用する。

三  前提事実(争いのない事実等)

1  債務者における、債権者の労働内容は、予め定められたスケジュールに従って、債務者梅田校において、受講者に対し、英会話等のレッスンをするというものである。またレッスンが入っていない場合には、レッスンの準備の他、宿題のチェック、テープの作成、レベルチェック、モデルレッスン等スタッフから依頼された仕事ないし教材の作成をすることになっていた。

債務者における英会話のレッスンには、グループレッスンとプライベートレッスンの二種類がある。グループレッスンは、同一の講師が複数の受講生に対し、受講生が選択したコースのカリキュラムに従って一単位五五分間の授業を約三ヶ月(一二単位)にわたってレッスンするものであり、プライベートレッスンは、受講生が随時、自己に必要なレッスン(一単位四〇分間)を選択して予約していくものである。

2  債権者は、平成九年六月訴外ゼネラルユニオンに加入し、同年八月二五日ゼネラルユニオン・日米英語学院支部(以下単に「組合」という)通知を債務者に行い、同一〇年三月一五日同支部の支部長に就任した。

平成一〇年の春闘に際して、組合は、賃上げを要求したが、債務者と合意に至らず、同年三月二八日から、債権者は組合員とともに、賃上げ等を理由とするストライキを行うようになった。当初は一単位のレッスン時間全部のストライキであったが、債務者が、ストライキのあるレッスンについて代替の講師にレッスンを行わせるようになったことから、同年四月四日以降は、レッスン開始後、途中でストライキの告知をして教室外に出てレッスンを中断し、再度教室に戻りレッスンを開始するという一単位の時間の一部(五分ないし三〇分)につきストライキをするようになった(以下「本件ストライキ」という。本件ストライキの詳細については、別紙ストライキ報告書記載のとおり)。

3  債務者は、本件ストライキに対する措置として、平成一〇年四月一三日、債権者をグループレッスンの担当講師からはずすとともに、プライベートレッスンについては、同年五月六日から本来一単位四〇分間のレッスンであるところ、一五分間延長し、債権者が一五分間以上ストライキをしない限り予定レッスンが終了できるようにした。

4  債権者を含む組合員のストライキは約一〇か月の長期に及び、本件ストライキ実施以後、債権者の稼働率{実際に授業を行った時間(授業時間)を、フルタイム時間(契約時間から休憩時間・休暇日・ストライキで就業しなかった時間を引いた授業可能時間数)で割った数値}は大幅に減少し、平成一〇年一二月五日ころには二九パーセントとなった。

三  争点

1  本件解雇の有効性

(一) 解雇理由

(1) 債権者の稼働率の減少の原因

(2) レッスンがない場合の債権者の就業状況

(二) 本件解雇の不当労働行為性

2  保全の必要性

第三当裁判所の判断

一  争点1(一)(1)について

1  本件ストライキ開始後、債権者の稼働率が大幅に減少し、本件解雇時の債権者の稼働率が、五〇パーセントを切っていることについては当事者間に争いはない(ただし、稼働率の算出にあたって、四五分以下の時間帯をどうするか、一レッスンのストライキを実施したときストライキ時間を何分として計上するかについて当事者間に争いがあり、平成一〇年三月二三日から同月二八日までの稼働率を債権者は九七パーセント、債務者は八七・六二パーセントと主張する。また平成一〇年一一月三〇日から同一二月五日までの稼働率は、債権者、債務者とも二九パーセントと主張する)。

この稼働率の減少の原因について、債権者は、<1>債務者が債権者をグループレッスンの担当から外したこと、<2>債務者においては、グループレッスンからプライベートレッスンという受講生の流れがあるが、債権者がグループレッスンの担当を外れたことにより、この受講生の流れがなくなったこと、<3>債務者が、債権者にプライベートレッスンの予約が入らないように操作したこと、<4>債権者の担当していた受講生でレッスンが終了してやめていく生徒がいたことが右稼働率の大幅な減少の原因であると主張する。他方債務者は、債権者がストライキを行った結果、ストライキによるレッスンの中断に抵抗を覚える受講生が多いこと、債権者が、授業中にレッスンとは無関係な組合に関する話しをしたり、債務者に対する悪口を言ったりしたためであると主張する。

2  本件一件記録によれば、債務者は、債権者がストライキを行うようになって以降まもなく、債権者をグループレッスンの担当から外したこと(前記争いのない事実)、新規の受講生に対し、債権者のプライベートレッスンの受講が可能であることを告げなかったこと、また債権者のプライベートレッスンの受講を希望する生徒に対し、債務者のスタッフが、債権者はストライキを行うかもしれないことや他のストライキを行わない講師にしてはどうか等と告げていたこと(書証略)、債権者の担当していた受講生がレッスン終了を原因としてやめていく者がいたこと(書証略)という各事実が一応認められる。

これに対し債権者が授業中にレッスンと無関係な組合に関する話しをしたり、債務者に対する悪口を言ったりしたため、債権者の稼働率が減少したとの債務者の主張については、これにそう疎明(書証略)が提出されているものの、債権者の授業を直接受けていた受講生から、そのような事実がなかった旨の陳述書が提出されていること(人証略)、乙七は、署名押印している各人全員が、そこに記載されている個々の内容すべてについて体験したものではなく(書証略)、その内容の信用性について疑念があること、ストライキ開始後、債権者を含む全組合員の稼働率が債権者と同様に減少していること(書証略)等の事実に照らし、右の各疎明はたやすく信用しえず、他に右事実を一応認めうるまでの疎明はない。

3  本件債権者の行っていたプライベートレッスンは、受講生の予約という債権者本人の就労意欲とは別の要素により、その数が左右されるという特殊性がある。他方、レッスンのストライキを望まない受講生がいるということは合理的に推認できるところ、かかる状況下で、レッスンのストライキを実施した場合、債権者の行うプライベートレッスンの数が減少することは避けられない。このような場合に、プライベートレッスンの数の減少を解雇の理由とすることは、結果的に債権者のストライキの行使を制限することになり相当でないうえ、加えて、本件においては、前記認定のとおり、受講生の予約に左右されないグループレッスンの担当から債権者を除外する、債権者のレッスンを受講しないように債務者のスタッフが受講生に働きかけていた等債務者の本件ストライキに対する措置が、債権者の稼働率の大幅な減少に影響を与えていることが一応認められることに鑑みれば、本件において稼働率の減少を解雇理由とすることは許されないものといわざるをえない。

以上より、本件において、稼働率の減少は解雇理由足り得ない。

二  争点1(一)(2)について

1  債務者は、債権者はレッスンがない場合には宿題のチェック、テープの作成、レベルチェック、モデルレッスン等を行わなければならないのに、債務者の業務命令を無視して、スタッフから依頼された仕事及び教材の作成をしておらず、このことは債権者は、レッスンを行わない時に何をしたかについて「On-Duty Hour Record Sheet」に記録することとされていたにもかかわらず、これを記録していないことからも明らかである、またスタッフや非組合員講師に対して、債務者を非難する言動を行い、組合の活動に同意するように言う、債務者の学院長等に対し英語のスラングを使って「恥を知れ」「イヤなヤツ」などと言う、レッスン中の他の講師の教室をのぞき込んだり、罵声を浴びせたりする等の嫌がらせ行為を継続したと主張する。これに対し、債権者はこれらの事実を否認し、「On-Duty Hour Record Sheet」への記載については、これを記載しなければならないことを知らない講師も多く、ほとんどの講師はこれを記入していないと主張する。

2  確かに、「On-Duty Hour Record Sheet」について、債権者が記載すべきであるのに、その記載がない部分があることが一応認められる(書証略)。しかし他方「On-Duty Hour Record Sheet」の記載については、ほとんどの講師が記入していなかったこと(書証略)、債権者は、レッスンのない時間を使って教材や添削等の仕事をしており、またスタッフに対しても仕事をすることを申し出ており、スタッフから依頼された仕事を行っていたこと(書証略)が一応認められる。

また、スタッフや非組合員の講師に対する嫌がらせ行為について、債務者は疎明として書証(略)を提出するが、書証(略)については、前述のとおりその内容の信用性に疑念があるうえ、ストライキ中他の講師の教室をのぞき込んだり、罵声を浴びせたり、パソコンルームで注意したスタッフに怒鳴ったといった各事実については、これを否定する受講生の陳述書(人証略)、債権者の授業中の様子から、罵声をあびせる、怒鳴るなどといったことは考えられないとの受講生の陳述書(人証略)に照らし、右各疎明はたやすく信用しえず、他にスタッフや非組合員の講師に対する解雇理由足りうるほどの事実について、これを一応認めうるまでの疎明はない。

従って、本件においてレッスンがないときの債権者の就労状況が不良であるとの一応の疎明はなく、右債務者の主張は採用しえない。

三  以上より本件解雇について、解雇理由<1>は、解雇理由とはなしえず、解雇理由<2>は、解雇理由とされた事実が認められない(なお解雇理由<3>については、本件仮処分手続きにおいて具体的な主張はない)。よって本件解雇は、その余の点について判断するまでもなく、解雇権の濫用として無効であり、債権者、債務者間の雇用契約の存在を前提とする債権者の本件仮処分の申立てについて、その被保全権利を一応認めうる。

四  争点二について

債権者が、「人文知識・国際業務」をその在留資格とする外国人であり(書証略)、本案訴訟を遂行するためには在留資格が必要であることに鑑みれば、本件では、債権者が、債務者に対し、雇用契約上の地位を有することを仮に定める必要性は肯定できる。また、債権者は債務者から本件解雇の解雇予告手当として二七万五三七五円の支給をうけていたこと(書証略)、債権者は債務者からの給与で生活を維持しており、債権者の一ヶ月分の生活費として月額約二三万円が必要であること(書証略)が一応認められるから、本件における仮払い金額としては月額二三万円が相当である。

よって、主文のとおり決定する。

(裁判官 川畑公美)

別紙(略)

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